牛乳の日
 六月一日は国際連合食糧農業機関(FAO)の提言する世界牛乳の日である。「父の日に牛乳(ちち)を贈ろう」と提唱してきた熊本県酪農女性部などとともに、私は牛乳功労賞を贈られ、牛乳大使に任命された。私は主に子供たちに酪農という仕事を理解してもらうため、童話「酪農家族(全四冊)」、絵本「牧場のいのち」などを書いてきたが、(社)日本酪農乳業協会(j−milk)から賞を受けたのは意外であった。
 現在バターが極度の品薄で、スーパーにいってもなかなか買えない。数年前は生乳は生産過剰で、生産調整のため捨てていたのにである。日本の農産物で最大の生産量があるのは米で、次が酪農製品である。酪農はかつて自給率は九〇パーセントあり、日本農業の貴重な虎の子といわれていた。だが現在では自給率六六パーセントに落ち込んでいる。
 何故こうなったのか。農業だから気候の影響を受け、生産が多い時には在庫を持ちながら弾力的に不足に備える。生乳は貯蔵できないから在庫はバターやチーズに加工するのだが、冷蔵設備が必要であり、半年しかもたない。在庫にそんなにコストをかけるより、外国から買ったほうが早くて安くて楽だという安易なコスト意識できたつけだ。
 牛を処分すると、次世代の乳牛が生産をはじめるのに三年かかる。生産調整といっても、減らすことはできても、急に増やすことはできない。ここに飼料の穀物の値上がりが襲いかかった。結局、安定生産を保つには餌も国産化をはからねばならない。
 毎年酪農家は四パーセント自然減少しているが、今年は六〜八パーセントという。酪農家数は全国で二万五千戸で、最盛期には四十一万戸あったというのである。

日本経済新聞(夕刊)2008年6月11日(水)

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