『気の向くままに』
「宇都宮市南図書館に立松さんの文庫スペースが出来ましたよ」と、新聞切り抜きを添えて塩原温泉の田代さんからご連絡をいただいた。
春から東京の大学に通う娘の所の帰りに、開館間もない新しい南図書館に寄ってみた。図書室入口には立松さんの愛用品、写真が展示されて、一角スペースには見慣れた書籍が並んでいて、何人かの方がベンチに腰かけ手にとってご覧になっていた。
宇都宮出身の立松さんはふるさとの思いを「ペンにしたため」。テレビ、講演等々ではふるさとを熱く語り続けた一人。それでも、宇都宮市には、このような著名人が沢山おられるのか、今回のような形になるまでにはだいぶ時間を要した。
館岩の「和平文庫」は立松さんからの蔵書を中心に、新聞切り抜き、週刊誌等々まだまだ整理がついたかつかないかわからない状況にあるにしても、宇都宮の戸崎さんが整理してくれた、和平さんのテレビ出演ビデオ、講演会等々の音声の財産を見たり聞いたりできるようにしているが、ゆっくりくつろいで、絵本一冊読んで頂けるようにはなっていない。
和平さんから机を作ってくれと依頼され、行き場のなくなった古い机も倉庫に居れたままになっているが、和平さんの声が聞こえるように、立松文学を伝えることができればいい。
『前沢集落入場者 』
「何か見るところありますか?」
決まり文句のように入場料を払った方々からの問い。
前沢集落は、立松さんからの応援もあって、国の重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けているが、隣町の大内集落のようなお土産店、蕎麦店などの賑わいはない。物見遊山の方にすればなんともつまらないただの山村集落に間違いはない。
和平さんが「全国どこも同じ風景」になったと書いていたが、そこそこの町であれば、チェーン店や住宅メーカーの家が立ち並ぶ同じ風景となる。
明治40年の大火災で一斉に立ち並ぶ茅葺き屋根は、馬と生活を共にした雪国で暮らす工夫が隠された中門造り(曲家)、妻面には明り取りの窓、梁と貫の木組み、前包みの彫刻、狐格子など意匠性の高い造りは学術的であり、建築に携わる人には大変興味ある群といえるが、普通はつまらないとなる。
茅屋根職人、大工、左官と多くの職人が手をかけ、生活の営みを感じられる「茅葺き屋根」を日本の原風景などと美化する一方で、この風景の維持にどれだけの山の恵、人の手間を考えれば、こんこんと湧く水に喉を潤しながら、ひと時の風や土の匂いを感じる時間が、また価値と考えられないだろうか。「人の居る風景を旅する」和平さんの名言と思う。