サハラ砂漠の美しさと恐ろしさ
 パリ・ダカール・ラリーに2年連続出場し、私はサハラ砂漠の美しさも恐ろしさも、骨の髄に染み込むようにして知っている。
 太陽が砂丘の向こうに沈む光景は、心の底が染められるように派手で美しい。だが、その風景に見とれているわけにはいかない。これから夜がくるからである。
 私たちはプライベーター(個人参加者)で、装備も貧弱で出走順も遅いため、夜に距離をかせがなくてはならない。砂漠は平らなばかりでなく、砂丘が連結したり、その昔に川だった跡の「乾いた川」の窪みもある。夜はライトが届く範囲しか視界がないので、危険な箇所を見落としてしまわないとも限らない。あまりにもリスクが高いので、速度は落とさざるを得ない。そのために様々な負担がかかってくる。
 平らな暗い砂地を全力で走っていると、ライトが届くところしか見えないわけで、巨木の森の中のそこだけしか通れない道を疾走しているような気になってくる。ハンドルを曲げると、崖から転落してしまうかのように思える。その分、夜明けはまた感動的だ。
 サハラ砂漠は人を寄せつけない不毛地帯というのではなく、ところどころにオアシスがあり、村がある。そこで農業が行われていたり、塩の井戸があったりする。村と村とを結ぶ隊商(キャラバン)が、ラクダを長く連ねてゆっくりゆっくり進んでいる光景に出合う。
 私はサハラ砂漠とは命懸けで付き合ったのだ。

関西国際空港情報誌「KANKU」2008年8,9月号

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