法隆寺金堂修正会
 奈良斑鳩の法隆寺では毎年正月八日から十四日まで、金堂修正会(しゅしょうえ)が厳修される。この十三年間、私は可能なかぎり御行(みおこな)いに参加させてもらっている。昨年は南極の昭和基地に招かれていくことができず、今年は十一日から四日間参籠(さんろう)することができた。ようやく一年がはじまった感じだ。
 金堂修正会とは金堂で正月に修める法会という意味で、内容は吉祥悔過(きちじょうけが)、つまり吉祥天に過(あやま)ちを悔いて罪や汚れを許してもらう。仏教では仏に懺悔(ざんげ)をすれば罪の意識のなくなる状態、無罪相懺悔になることができるという思想がある。金堂修正会は個人おのおのの滅罪をするというより、すべての人の罪を除き、新しい年によりよく生きることができるようにとの祈りだ。
 法隆寺吉祥悔過は七六八(神護景雲二)年からはじまり、単純計算をすると今年で千二百四十一回ということになる。日本でも最も古い仏教の法会ではないだろうか。国宝の美しい仏像などがたくさんある法隆寺は、人々の安穏を祈願してきた寺なのである。祈りの法燈をともしてきたのだ。
 私は僧侶の手伝いの承仕(しょうじ)という役をおおせつかっている。毎朝五時半に起き、お燈明を点け供物を供える。僧侶と声を揃えて声明をし、経典を読誦する。形式は少しずつ変わったろうが、古代人と同じ祈りをしながら、人の根本は何も変わらないのだと認識する。仏菩薩の名を讃えてこの場においでをいただき、誓願をするのが声明で、朝昼晩とおよそ二時間ずつ一日三度やる。
 何を願っているのか。複雑な経文から私見で取り出せば、地味増長、五穀成就、万民豊楽である。土に力をもらい、食糧が生産され、人々が豊かにと祈るのだ。

日本経済新聞(夕刊)2008年1月30日(水)

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