25年の紹興酒
 「映画「サイド・ウェイ」を見ながら、ワインを飲もう」
 1年も前から娘夫婦としていた約束を、ようやく果たす日がきた。特に難しいことでもないので、やろうと思えばよいだけのことだ。妻は、ワインを用意し、私は紹興酒を持って、娘夫婦の暮すマンションに出かけた。
 娘が料理を用意してくれていて、まずビールから飲みはじめた。私が持参した紹興酒は、とっておきのものだ。昨年浙江省国際作家会議に呼ばれ、魯迅の故郷の紹興にいき、そこでもらったものだ。
 「ヨーロッパの人にはわからないから、あなたにあげる」
 浙江省の役人である主催者の女性は、私にこういって化粧箱にはいったいかにも上等そうな紹興酒をくれた。見ると25年ものであった。10年ものぐらいは中華料理店でなんとなく見るが、25年ものは貴重品中の貴重品だ。宝石のようなものである。
 紹興では、女の子が生まれると、もちごめの醸造酒である紹興酒を地中に埋め、結婚式に掘り出してみんなにふるまうという。時々埋めたのを忘れてしまったりする。都市開発のため土を掘り返すと、古い酒の瓶が見つかるそうである。
 小さな盃に2杯ずつ飲んだ。
豊潤さはたとえようもないものである。こんな酒が地球上に存在するかという感動ものだ。
 映画「サイド・ウェイ」は再婚式を前にした中年男の友人二人が、ワインの蘊蓄(うんちく)を傾けながらワイナリーを巡るという物語だ。途中ナンパして、女に殴られて、なんとか再婚式に間に合うという喜劇でもある。
 映画を見ながら、宴会をするというのも、注意力が散漫になるようである。どちらかにしたほうがよいようだ。
 それにしても上等な紹興酒であった。
絵:山中桃子
BIOS Vol.55 06.06.20