初島へ
 妻と娘夫婦と熱海に旅行をした。明日の昼間どうしようかと相談している時、旅館の窓から初島か見えていた。島があるとそこにいきたくなる。明日は憲法記念日と子供の日の間で国民の休日なので、どれほど混雑しているかわからない。あまりにも込んでいたら途中から帰ってくればいいということで、とりあえずいってみることにした。
 熱海市内はどこもかしこも人がいっぱいだった。数年前には不況のため倒産したホテルが廃虚のようにならんでいたのだが、この数日間だけなのかどうか、大変な活況を呈している。活況というより人人人の人混雑だ。
 数日前に地震があり、旅館のほうでは客足が切れるかと恐れていたそうだ。熱海市消防署が地震体験験の車を出していた。トラックの荷台に家がつくってあり、中のテーブルに人がついたところで、機械が地震をつくるのである。親子連れが楽しそうに悲鳴を上げながら地震に揺さぶられていた。
 初島行きのフェリーのターミナルも、人がいっぱいだった。
切符を買ったのだが、陽なたの下で行列に並ぶ気はしない。列が動き出してから最後尾についた。フェリーは収容力が多くて、乗船することができた。
 熱海港ではジェットスキーで遊んでいる若者がたちがいた。走っていくフェリーを追って、何台ものジェットスキーが迫ってくる。まるで遠くの離島にいくような光景だったが、たった23分で着いてしまうのである。それでも離島への旅に変わりはない。胸がおどるのであった。
 初島は名産のてんぐさを使ったところてん祭りの最中で、200円で食べることができた。食堂街のある表通りは熱海と同じような雑踏なのだったが、ほんの少し裏にはいると離島らしい静けさがあった。なんでもない時にもう一度きたいものだと、ほぼ全員の意見である。こんな近くにまったく別世界があった。
絵:山中桃子
BIOS Vol.53 06.04.20