春の日光の花 | |||
春の喜びを感じて 日光の春をまず告げるのは、山のあちらこちらに咲くアカヤシオである。紅色の花で、一般にはヤシオツツジと呼ばれ、栃木県の花に指定されている。まわりの樹木が冬から醒めず、固い芽をつけてまだ眠っている時期に、山麓に紅色の花が咲く。その色を見れば、心に火を灯したような気分になる。日光のどことはいわず、いたるところに見られる。高山から低山に降りてきて、季節の移動を知らせるのである。 日光の春は遅い。アカヤシオツツジが咲くのは、平野部ではソメイヨシノの桜がとうに散った5月である。山の緑がどんどん濃くなるにつれ、赤い色がもっと強いトウゴクミツバツツジが花を聞かせる。淡い緑色を背景にすると赤が鮮明に見え、水辺にあるともっと映える。アカヤシオツツジもそうなのだが、トウゴクミツバツツジを見るためには、湯ノ湖畔から出発するとよい。道は戦場ヶ原を通り、湯川に沿ってつづいていく。やがて中禅寺湖に至り、湖畔の周遊路を歩くのがよい。春のこのコースなら、多少の季節の幅の中で、アカヤシオかトウゴクミツバツツジの盛りに出会うことができるだろう。清楚な中禅寺湖の水を背景に、精一杯に咲き誇った山の娘のようなトウゴクミツバツツジの花を眺めていると、春の中に自分はいるのだというしみじみとした喜びに満たされてくる。 奥日光は花盛り 中禅寺湖畔にはもう一つ、春の到来を力強く伝えてくれる花がある。オオヤマザクラである。里のほうは桜といえば派手なソメイヨシノばかりになってしまったが、オオヤマザクラは力一杯に咲いても控え目である。一度に咲いて一度に散っていくソメイヨシノは江戸時代に開発された交配種で、日本古来の桜はこのヤマザクラなのである。オオヤマザクラは紅色なのでベニヤマザクラとも呼ばれるのだが、ひそやかな気配をたたえた桜に違いない。私はこのオオヤマザクラを見るためにも、中禅寺湖畔を散策するのである。 桜が終わった頃、春の奥日光で見落とせないものがある。湯ノ湖畔のアズマシャクナゲである。湯ノ湖西岸に大群落となったアズマシャクナゲは、年によって花のつけ方が大きく違う。また山つひとつの花で濃淡が変化しているのが、アズマシヤクナゲの特徴である。高山植物は一般に控え目で、このアズマシャクナゲにその要素がないとはいわないが、一年を通しての花のうちでも最も派手なのではないだろうか。それでももちろん透明感を失っていないのが、高山植物としてのアズマシャクナゲの美風というものだ。 すでに奥日光は花盛りである。アズマシャクナゲの群生地は、もう一つ中禅寺湖西岸にもある。この花は、日当たりのよい場所ではなく、山陰の寒いようなところを好む。かたくなな感じのする花なのだが、数ある花のうちでもとっておきの美しさを見せているのではないだろうか。
旅ばあーん 2006.03.06
|
|||