北上川 | |||
重厚な写真集である。なんの予備知識もなくページを開き、私は襟をただす気持ちに素直になった。ここには生活をしてきた人々と、その人々を支えてきた風土が、重層的に描かれている。
写真もあけっぴろげだ。市井の人たちの中に、写真家の肉親や友人もまぎれ込んでいるとみえ、それが写真集の世界を分厚くしている。人が生きることがまず大切で、写真がピンボケだろうが手ぶれをしていようが、そんなことはたいした問題ではないと思わせる力にあふれている。 膨大な時間が流れ、人生の元手を惜しげもなく注ぎ込んでいる。写真家の心象風景を見せられたような気がした。心象風景も、実際に写真に撮ることができるのだ。そのために写真家は、これまでの人生をこの一冊に込めたのだ。近年の収穫といえる写真集である。
朝日新聞2005年12月11日(日)
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