天と地の間
 スマトラ沖地震は、2004年12月26日にあった。スリランカでは、朝9時10分と9時30分に津波に襲われた。スリランカの犠牲者は3万8000人から4万人である。
 2千年前に津波の記録はあるのだが、普段は津波など存在もしないので、言葉がない。日本語から英語になった「TSUNAMI」をとりあえずの言葉として使っている。
 私はスリランカで仏跡めぐりをする機会があり、そこに出発する前、津波の被害地にいってきた。 コロンボから海岸線に沿って南下すふと、ヒッカドゥワというマリン・リゾートがある。
沖合いにサンゴ礁のあるヒッカドゥワはダイビングやスノーケリングをはじめ、マリンスポーツならいろいろできる。そもそもがヒッピーたちがつくったリゾート地であり、スリランカに着くとまっすぐヒッカドゥワに向かうという人は多い。
 海岸線にホテルや土産店がならぶこの地に、津波はまともに襲いかかった。人口13万5000人のうち、亡くなったのは、1051人、被災者5万5660人、家全壊2571戸、半壊2792戸である。
 海岸線にはヤシ林があり、その中に小さな家が並んでいた。私がいった10月は、被災から10ヵ月後である。海岸線に沿って、土台しかない家がならんでいる。不思議な光景であった。
 もっと不思議なのは、災害を受けたと同じ場所に家を建てていることだった。津波はいくら2千年に一度しかこなかったといっても、またくるかもしれないではないか。金槌を持って家を建てていた24歳の男はいう。
「妻と、4歳と1歳半の娘が亡くなりました。私はすべてを失いました。津波は自分だけに災害をもたらしたのではありません。みんなの災害ですから、海をうらむとかそんなことはありません」
 男は天と地の間しか生さる場所はないのだという感じで、いうのであった。
絵:山中桃子
BIOS Vol.48 05.11.20