「一日多い旅」
 知床にいる時、日本列島の南のほうに台風がやってきた。日本列島は南北に長いのだから、北のはずれの知床にくるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。その時私は妻といっしょだった。1日後の朝、私には大阪にいかなければならない仕事があった。妻は東京に帰ればいい。
 台風は大型だったが、進行が遅い。台風がやってくる前に私は大阪に着いてしまうだろう。
私の切符は札幌経由であった。ところが台風は突然走るように動き出した。テレビを点けると、暴風がどんどん近づいてくる。
 私はあわてた。早く動いたほうがいいと思い、その日の最終便に乗ることにして、切符を札幌経由からその晩はとにかく東京までいき、大阪には翌朝にはいることにした。女満別発羽田行きの最終便は、20時25分である。
 知床の友人に女満別空港まで送ってもらい、チェックインをすませ、なんとか東京までは帰れそうだなと安心した。ところが台風が東京に上陸し、羽田空港が暴風雨圏内にはいり、出発するかどうか検討中だとのアナウンスがくり返された。時間がたてばたつほど、帰ることは難しくなる。結局1時間待たされたあげく、欠航ということになった。
 それからの動きは自分ながら速かったと、私は思う。欠航のアナウンスの最中に、私は妻に荷物のピックアップを頼んで走りだした。航空会社のカウンターに着いたのは一番だった。明日の切符の手配をすませると、荷物を待った妻が待っていた。カウンターでホテルリストをもらい、とりあえず少ないタクシーを確保して乗った。いつも前を通っている網走湖畔ホテルの名がリストにあったので、電話をすると、泊まれるという。
 立派な温泉ホテルだった。台風がきているというのだが、ここは風もなく静かである。一日分多く旅ができるのだと思うことにした。一人でなくてよかった。
絵:山中桃子
BIOS 04.10.20