猫のひげ「我が家の猫事情」
 我が家には4匹の猫がいる。
好きな時に家にはいってきて、好きな時に出ていく。猫の出入りが自由なように小窓をつくり、その小窓にいけるように扉が猫の幅の分だけ開いているので、たえずすうすうと隙間風がはいってくる。
 しかも、猫はところかまわず横になるので、いつしかこちらも猫の毛だらけになる。黒いスーツなど、よほど気をつけていなければ、猫の毛まみれになってしまう。公の場所にでて、なんとなく恥ずかしい思いをすることもある。
 4匹のうち、雄と雌とが2匹ずつである。もちろん去勢はしてあるのだが、本来の習性をすっかり忘れてしまったわけではない。雄は自分の領域を示すためと、マーキングをする。要するに小便をかける。発情期になると、知らないうちにあっちこっちに小便をかけてまわるので、どこからともなく異臭がしてくる。スーツなどを壁に吊るしておくと、見ている前でこれ見よがしに小便をかけたりする。その瞬間に私は猫を叩いてやるのだが、妻には虐待だと抗議されたりする。
 猫好きなのは妻のほうで、私は身のまわりに猫がどんどん増えていくのを我慢しているのだ。私は猫のにおいをつけたまま外出し、まわりの人にへんな顔をされるのにも耐えているのだ。
 猫がいなければとても生きていけないと妻はいい、猫を抱いてこたつにあたり、テレビなどを見ている。それだけならばいいのだが、雌は外からしょっ中おみやげを持ってくる。ネズミ、ヤモリ・ゴキブリ、スズメ、野鳥などである。私の家は東京の恵比寿にあるのだが、都心にもこんな生きものがいるのかと驚くばかりである。朝起きていくと、居間の床に血まみれの大ネズミが死んでいたりする。その日の私の最初の仕事は、わずかばかりの庭に穴を掘り、ネズミを埋葬することだったりするのだ。
ビォス3月号