2002年8月
番屋のもてなしチャンチャン焼き
知床(しれとこ)にいき、何人か集まって酒でも飲むかということになると、必ずといってよいほどチヤンチヤン焼きをする。知床半島の奥地で合宿生活をする漁師のところにいっても、チャンチャン焼きでもてなされることが多い。チャンチャン焼きは、知床ではごく当たり前の漁師料理である。
本来は浜で焚(た)き火をし、雪かき用の平らなスコップを鍋がわりに使ったようである。火の勢いが強すぎ、木部の柄が燃えてしまったよとは、よく開く話だ。
番屋の暖房用は薪ストープだ。いくらでも浜に漂着する流木を、燃料にするのである。薪ストーブは長い薪が入りやすいように長四角形になつていて、上に同じサイズの長方形の鍋を置く。鉄工所で特注してつくったものである。
チャンチャン焼きにまず必要なのは、生サケ一本丸ごとである。一般に知床ではカラフトマスのほうがチャンチャン焼きにはうまいとされでいるが、好みもあるにせよ、材料は季節に左右されるのである。カラフトマスは夏から捕れる。
鉄板にバターを固まりごとのせ、その上に開きにしたサケをそのまま置く。サケには日本酒でといた味噌を塗っておく。基本的にはこれだけだが、鉄板の上のあいたところのスペースに、ジャガイモや玉ネギを散らしておいてもよい。焼酎でも飲みながら、サケが焼けていくのを見ている。早く焼けろよと、箸でスコップのヘリを叩いたから、チャンチャン焼きの名がついたという。
私はサケの切り身の形を残して皿に盛り上げるのが、サケの風味を残して美味だと思うのであるが、それは邪道であると知床の友人にいわれてしまった。正しくは、サケも味噌もジャガイモも玉ネギもかきまぜてしまうのだという。
知床の漁師がいうのだから、まぜるのが正しい形なのであろう。