人類の愚かさの物語
 ゴールデンウィークは、行楽日和だという天気予報が早いうちには出ていて、外出の計画を立てた人も多いだろう。しかし、こどもの日は雨で、全体を通して五月晴れとはいかなかった。予報官の苦労をおしはかると、天気予報がしにくくなっているのではないかと私は考えてみた。地球温暖化が進むと、気候は不安定になるという。
「+6℃」(ランダムハウス講談社)という本は、地球の温度が一度から六度まで段階的に上がるとどうなるかをシミュレーションしている。二度上昇すると、北極の氷が溶けてアジアと北米とヨーロッパは航行できるようになるという。当然北極グマは生息が困難になる。
 また二〇〇七年八月にロシアの探検家が海氷の下に潜水艦で潜り、北極点下水深四千メートルの海底にさび止めをした金属のロシア国旗を設置し、親プーチン政党から政党の紋章である毛皮つきの大きな北極グマのおもちゃを贈られたという。この地域の石油と天然ガスはロシアのものだと主張したのである。  先日テレビでニュースを見ていたら、この金属の国旗が写され、ロシア、アメリカ、カナダ、デンマーク、ノルウェーなどが採掘権を確立すべく躍起になっているとの解説がなされていた。この意味を読み込む人は読み込んでくれという風に私はとった。
 北極の氷が溶ければ、北極グマが生きられなくなることを悲しむのではなく、石油が掘れると喜ぶ人がいるのだ。石油はおそらく莫大(ばくだい)な富を生むだろう。その石油はまた地球温暖化の主要な原因となる。
 寓話(ぐうわ)のような話である。その先に待っているのは何であるか、あまりにも明白だ。とても笑ってはいられない。

日本経済新聞(夕刊)2008年5月14日(水)

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