毘沙門天の力
 知床では十数日間雨が降りつづいていた。日照時間が絶対的に少なく、気温が上がらないので、農作物の出来が心配されていたのだ。小麦もジャガイモも実をつけるのに大切な時期なのである。
 「うんと寒いの。暖かいものを着ていらっしゃい」
 常宿にしているホテル斜里館のお母さんと電話で話すと、こういわれた。私と妻とは知床の帰りに大雪山に登ってくるつもりなのだが、山のほうには雪が消えずに残り、アイゼンが必要だといわれていた。
 どうも気候がおかしい。毎年毎年様子が違うのは当然ではあるにせよ、気候が乱れはじめているようだ。簡単には断定できないのだが、地球温暖化の影響がでているのかもしれない。
 六月二五日(日)の午前11時から知床毘沙門堂例祭である。私は六月二三日(金)に知床にいった。寒かった。例年なら夏の最も気候のよい時期なのである。
 昨日の土曜日に私は妻と網走にいき、網走刑務所の刑務所製品展示即売場の見学にいった。欲しい家具があり、気にいったものがあれば買うつもりであった。だが気にいったものはない。毎年十一月三日に大展示即売会が開かれ、網走刑務所の一年分の製品を出すばかりでなく、全国の刑務所からも集めるということだ。ぜひきたいのだが、こられるかどうかはわからない。
 網走市内で馴染みの寿司屋で少し遅い昼食をとり、火曜日に登る大雪山も寒いことが予想されたので、スポーツ品店で妻のウェアを買った。寒いのに着るものがなくて高山に上がるのは、危険だからである。
 毎年この時期に例祭をして、今年は12回目の知床毘沙門例祭である。いつもの通り、法隆寺や金閣寺や銀閣寺や清水寺からお坊さんたちがやってきた。その日は素晴らしい天気で、暑く、いきなり夏がきたようであった。これも毘沙門天の力であろうか。
絵:山中桃子
BIOS Vol.56 06.07.20