今年の花見
 今年は早く桜が咲き、咲いたとたん寒い日がつづいたので、いつまでも散らない。したがって、花見の期間ほまことに長いのであった。
 歌舞伎座で芝居を見て、3年前の3月歌舞伎に「道元の月」を上演したことを思い出した。
1ヶ月の公演なので、ひどい芝居を書いたら1ヶ月は地獄だよといわれていたのだが、まるで極楽にいるような楽しい日々がつづいた。内容もうまくいったし、客もやってきたからである。
 その時は昼の部のはじめに「道元の月」がかかったので、その上演が終わると、そこまで一緒に苦労した人と花見にいったものだ。千鳥ヶ淵、靖国神社、歌右衛門の墓のある青山墓地と巡ったのである。
 今回も歌舞伎座に芝居を見にいった折にその話になり、靖国神社にいこうということになった。花は咲いていたのだが、屋台はやっていなかった。夜桜なのに、ライトアップもされていない。
 酒がなければ、花見はどうも盛り上がらない。屋台の支度をしている人に聞くと、明日から商売をするといわれた。結局恵比寿までいき、行きつけの酒場に入ったのである。
 その数日後、ちょうど妻の誕生日だったので、花見がてら食事にいこうということになった。妻の誕生日は3月30日で、この時期に花見をした記憶はない。つまり、今年は桜の開花が早いのである。
 タクシーで青山墓地にいったのだが、寒い夜であった。桜は満開なのに、人はあまり出ていなかった。屋台があったので、カップ酒を飲み、フランクフルトソーセージをかじった。
 店の人も防寒着を着ているのに寒そうで、テーブルについていても、ゆっくり座って花見でもしようという気分にはとてもなれなかった。満開の花が風に揺さぶられていた。あんなに揺れているのに、花は散ろうとはしない。これは異常気象なのかもしれない。
絵:山中桃子
BIOS Vol.53 06.04.20