ビートルズ聖地巡り
 イギリスのリヴァプールにいくと、必然的にビートルズの旅となる。
 私は司馬遼太郎「愛蘭土(アイルランド)紀行」の後を追い、エッセイを書くための旅に出た。司馬さんは「単なる不良の四人組とたいがいの大人が思っている」というような意味の文章を書いているが、私などはその場所にいくとそんなに簡単に割り切ってしまうことはできない。
 ジョン・レノンは幼い時に両親が離婚し、母の姉のミミ伯母さんに5歳で引き取られた。そのミミ伯母さんの家と、近くのポール・マッカートニーが住んでいた公営住宅は、ナショナル・トラスト協会の手によって管理されていた。博物館として公開されていて、「マージカル・ミステリー・ツアー」と名をつけられたツアーの客が、ひっきりなしにやってくる。ここはビートルズの聖地なのである。もちろんいったところで、ごく一般的な住宅があるばかりなのである。
 「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のいちご畑も、実際にあった。そこは孤児院の林で、かつてはビクトリア調の荘厳な建物があったということだが、今は門柱と門扉と森があるばかりである。ここはジョン・レノンが子供の頃に自転車でやってきて、一人の時間を過ごしたところだ。いったところで手入れの悪い林があるばかりなのだが、ここは第一級のビートルズの聖地だ。
 ペニー・レインは、世界で最も有名な交差点かもしれない。彼ら4人が通学などで行き交ったところで、歌に歌われているとおり、銀行や消防署や写真を飾った床屋がある。平凡きわまりない交差点にすぎないのだが、くり返し歌われてきたために、霊性をおびてきたのである。そんな土地を、日本では昔から歌枕といった。歌枕は絶景地や景勝地をいうのではない。平凡で当たり前のところなのだ。私はビートルズでの歌枕の地を巡ってきたのである。
絵:山中桃子
BIOS Vol.45 05.08.20