立山登山
  ここのところ立山に何度もはいっている。テレビ香粗の制作と、月刊誌「岳人」に連載している「百霊峰巡礼」の取材のためである。
 確かに梅雨の季節なのだが、ここのところ予想外の長雨で、しかも降水量の多い土砂降りがつづいている。ほんの少し前までは全国各地で水不足だったのだが、今は豪雨のために洪水注意報がでている。立山でも大雨である。
 立山は大観光地である。富山から立山・黒部アルペンルートを通ると、立山の神々しい峰をすぐ前にする室堂(むろどう)までバスでいくことができる。それから電車やらケーブルカーやらトロリーバスに乗り継いで、黒四ダムから長野の大町に出る。つまり、自分の足で一歩も歩かずに、北アルプスの険しい峰々を横断できる。このような山岳観光地は
世界に類を見ない。
 室堂(むろどう)は連日の長雨で、濃い霧に包まれ、立山はまったく見ることができなかった日それでも台湾人の観光客が団体であとからあとからやってきて、雪渓を見ただけで歓声を上げ、「立山」と彫られた石碑の前にならんで写真を撮っていく。それが実に楽しそうなのである。
 その3日後、一度東京に戻った私は再び室堂にいき、立山登山をすることになっていた。大雨になっても登ろうと決めた。その日をはずすと、他に登る日がとれないからである。私はそれまで麓や室堂まで幾度となくいき、雨中の登山を覚悟し、その装備もしてきたのだった。
 登山の前日、すでに多くの人と顔馴染みになった室堂に、飛行機に乗り富山経由ではいった。すると夕方、ほんの一瞬だが霧が晴れた。翌日の希望が持てた。
 当日、早朝に起きてホテルの窓から見ると、霧のため何も見えない。ところがどんどん霧が晴れてきた。結局、立山の山頂に立つことができたのだ。山から下界に降りると大雨であった。雨の富山空港で、登山の喜びとともにこの原稿を書いている。

絵:山中桃子
BIOS Vol.44 05.07.20