白 山 登 山
 今朝6時に登山口の宿を出て白山に登ってきた。福井県大野市の宿に下りて夕食をとり、この原稿を書いている。実をいうと、もう少しでこの原稿の締切りを忘れそうになったのだ。
 奈良時代の天平年間、泰澄(たいちょう)という僧によって開かれた白山は、信仰の山である。白山神は女神で、本地は十一面観音とされる。仏菩薩が日本にきて、様々な神となってこの世に現れたというのが神仏習合の本地垂迹(すいじゃく)思想である。日本の思想に大きな影響を与えた白山信仰がはじまったのは、日光山が勝道によって開かれたよりもほんの少し早いということだ。
 私は現在、月刊山岳専門誌「缶人」にう百霊峰巡礼』と題する連載をしている。編集者とカメラマンと3人組で、毎月日本を代表する山岳霊場の登山をしている。『日本百名山』とかなり重なるのだが、こちらはより思想的な山に登るのである。日本の名山は、ほとんど寺があり神社がある霊地である。
 この連載は、第1回目が故郷の山に敬意を表して男体出であつた。連載は2年目に入り、二十幾つかの登山をした。春夏秋冬、毎月である。百カ月だから、足かけ9年かかる大連載だ。毎月の登山は、私の健康のためにもすこぶるよろしい。
 今回は、日本の霊峰中の霊峰の白山である。福井県山岳連盟の会長が同行してくれた。79歳ということだが、日本の三百名山はことごとく踏破し、毎年チベットの未踏峰に登っているのだそうだ。みんな7千メートル級の山ばかりを狙うため、6千メートル級の山には末踏峰はたくさんあるとのことである。
 白山は山頂で御来迎を見るため、二日がかりで登る山で、日帰り登山は困難であるとされている。しかし、山岳連盟会長に引っぱられるようにして、長いアプローチをいき、標高2702・2メートルの山頂に立つてきたところである。
絵:山中桃子
BIOS Vol.43 05.06.20