豪華客船
 豪華客船のクルーズに妻と二人で乗り、帰ってきたばかりである。につぽん丸の「オセアニア・エクセレント・クルーズ」は、神戸、横浜、サイパン、ニューカレドニア、ニュージーランド、オーストラリア、パラオ、神戸、横浜をまわる、いわば外洋航海をする大型リゾートホテルである。私は船上で大平洋やニュージーランドの話をしてくれと頼まれ、せっかくだから妻を同伴して、たまにのことだからと豪華な旅に出かけた。
 クルーズ全体では3月21日から5月2日の大旅行なのだが、そんなに時間がとれるわけもなく、私はニューカレドニアのヌーメアまで飛行機で飛び、そこから乗船し、ニュージーランドの2箇所で一日ずつ上陸してから、ウェリントンで下船するというコースである。やるべきことをするや、ただちに帰ってくるという、いつもの旅のパターンであることに変わりはない。
 それでも家を出てから戻ってくるまで、足掛け12日間かかる。ウェリントンからオーストラリアのシドニーで飛行機に乗り、ほぼ一日半かけて帰ってきたばかりで、この原塙を書いている。
 客船の中にいる時は、まさに豪華なホテルにいるようで、しかも大洋がずんずん後方に遠ざかっていく。退屈しないようにバンドや落語など多様なエンターテインメントが用意されていて、私は文化講座を担当するためにいったのである。講演のない時は、客になってのんびりと船旅を楽しんでいればいい。
 船内には世間の競争があるわけでもなく、食事も時間も教養も満ち足りている。我を張ればずっと一緒なので苦しくなるが、争いごとはせず、協調していれば、こんなに居心地のよいところはない。家の中のようなものだ。ここでは過去の実績自慢、子や孫自慢、また宗教などのことは禁句である。もちろん規則というわけではないのだが、自然とそうなっている。
絵:山中桃子
BIOS Vol.41.5.05.20