法隆寺金堂修正会
 今年の正月もまた奈良の法隆寺にくることができた。こうして年のはじめに行(ぎょう)をすることができるのは、私が無事の証拠なのである。
 正しくは1月7日の夕方から前夜祭のような軽い行事があるのだが、私の仕事の関係で1月上旬に一度登山しなければならなかった。山岳誌『岳人』に「百雲峰巡礼」をやっていて、原稿をいれなければならなかったのである。
 法隆寺近くの山ということで、
二上山(にじょうざん)に登った。二上山は大津皇子(おおつのみこ)の墓があるところである。奈良時代の石窟寺院などが廃寺として残っていて、どこか大陸の香りのある山であった。
 二上山のある大阪府太子町は、聖徳太子の御廟があるところで、まず墓参をしてから登山した。近くの富田林の旅館に泊まり、その間に「百雲峰巡礼」の原稿10枚を書き上げ、翌朝の10時ぐらいに法隆寺にはいった。
 法隆寺駅からタクシーで法隆寺南大門までいく。南大門を額縁に見立て、西院伽藍の中門と五重塔を望む風景が、私は好きだ。一年に2虔も3度もやってきて、ことに正月は一週間は寺内に泊まるのだから、ここにくると帰ってきたなあという感覚になる。
 1月7日から14日まで、法隆寺では修正会(しゅしょうえ)という年間で最も重要な法要がある。年頭にあたって天下万民の幸福を祈り、今年で1238回目の行である。そのうちの10回、私は参加している。
 得度しているわけではない私の役目は、承仕(じょうじ)といって、寺僧のアシスタントである。毎朝5時50分に起床し、金堂にいって燈明を点け、供物を並べる。そして、寺僧とともに声明(しょうみょう)をとなえるのだ。これを朝昼晩と一日に3度、2時間ずつやる。今年の寒さは格別で、奈良の寒さが身にこたえている。
 朝の行をすませて一息ついた自由な時問でこれを書いた。
絵:山中桃子
BIOS Vol.37 04.12.20